茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(286)「お名前をお願いします」

加藤匡通
十一月×日(日)
   組合とは別件でビラを置いて回っている。本屋や古本屋、スーパーなどの他に、図書館や公民館と言った公共施設は置いてくれるところも多いのでよく頼みに行く施設である。
  地域の歴史や運動についての資料があったりするので図書館では行政やそれに準ずるところの出版物があるか気にしている。単に所蔵、開架しているだけではなく、販売している場合もままある。県南出身の下村千秋と言う作家が「昭和」の初めに活躍していて、この人はルンペンと言う言葉を流行らせた作家だ。アンダークラス労働組合をしている身としては関心を持たざる得ないが、残念ながら現在新刊として入手出来る本はない。が、童話集がある自治体から出ていて、そこの図書館で買えると知ったので、ビラ置きついでにと楽しみにしていた。ビラを頼む前に本を買った方が心証いいかと窓口で、まず本を頼んだ。本屋、古本屋にビラを頼む時は本を買いながら頼んでいるのと同じ手だ。窓口の、まだ若い女性の職員は奥へ引っ込んで件の本を取ってくると書類を取り出しながら言った。「ではここにお名前をお願いします。」役所が支払いの際に使う長方形の出納用紙が手元にある。本を買うのに名前書かなきゃいけないのか?プライバシーって何のことだかわかる?ここで強く抗議してビラを置けなくなるのも困るが、かと言って。数瞬置いて名前を記入しながら聞いてみた。「これって誰が何を買ったか確認できますよね?」「いえ、そういうものではありません。」間髪入れずに何の引っかかりも感じていなさそうな答が返って来た。何を言いたいのか伝わっていないらしい。しかしそれ以上話を進めると置きビラを断られそうだ。諦めて記入を終え、金のやり取りをしてからビラの件を切り出すとOKだった。
  以前、僕が住んでいるつくばみらい市の行政の窓口で同じようなやり取りをしたことがある。やはり本を買おうとしたら名簿のようなものを差し出されて「よろしければこちらにお名前を」と言われた。「えっ」と聞き返し、また同じ台詞を言われ、また「えっ」と返し、さらにまた「あの、こちらにお名前を」と言われ、三度目の「えっ」でようやくこちらの意図を察したらしく「いえ、いやでしたら書かなくても」としどろもどろで名簿を引っ込めた。まるでコントである。個人情報保護法をいい法律とは思わないが、しかし茨城の地方自治体にはそんな法律も全く知られていないらしいな。それとも今日の件は図書館だから個人情報は明らかにして当たり前だと思っていたのだろうか?
   置きビラを終えて『テロ、ライブ』を見に行った。シネプレックスつくばで韓国映画をなぜか同じ時期に三本上映していて、一本は見逃し、『泣く男』は見た。で、もう一本である。『泣く男』は『アジョシ』路線の心も体も痛いいい映画だったが、こちらは『ブレイキング・ニュース』路線の映画である。上映時間と物語の進行時間を同期させながら、テロルの発生、犯人との交渉、更なるテロルの発生を生放送する。テロの理由はこの国以上に深刻と言われている韓国の格差社会にあるので、実にストレートな階級闘争の映画でもある。そして、当然にも階級闘争には勝てない結末が待っている。うん、階級闘争に勝利するなんて夢物語だからな(それでもやる。夢物語だからどうした。)。
  気に入ったのだけど手元に金がなくてパンフレットを買えなかった。正確に言うとパンフを買える金額を持ってはいるがそれを使うと明日の現場への交通費がなくなる。パンフを買って現場に行くのを諦める訳にもいかないのでパンフを諦めた。日雇い日払いは毎日がこんな綱渡りの繰り返しだ。給料取りに行ったらパンフ買いに行かなきゃ。早くしないとつくばでの上映が終わっちゃうよ。