茨城不安定労働組合

誰でも入れるひとりでも入れる労働組合である茨城不安定労働組合のブログです。

賃金奴隷な日々 日雇派遣日記(354)八街でも振られる

加藤匡通
十月××日(金)
  昨日今日と車で千葉方面に行った。もちろん派遣会社の仕事である。最寄駅から現場が遠いので車で行った方がよい場合、こうことがたまにある。通勤中の交通事故は労災とされるので通常派遣会社はバイクも含めて車通勤を嫌がる。僕が派遣会社の仕事であるにも関わらず自分で運転して車で現場に行ったのは茨城県内だけだが、初めから車でと依頼されたことは少ない。場所を聞いてそれなら車の方が早いしラクだと自動車通勤を許可してもらっているパターンがほとんどだ。今回の場合、最寄駅で派遣会社の同僚を二人乗せて行く必要があって話が回って来ている。派遣会社に登録している人間で車を持っている者はそうはいない。
  作業はコンクリートパネルの鉄筋磨きである。コンクリの板を嵌め込んで建物を作って行く工法があって、その板を作っている工場に呼ばれている。板からは鉄筋が出ているのだが、完成品が出荷されるまでに時間があってその間に鉄筋は錆びてしまう。錆たままだと完成後に躯体の中で鉄筋は腐食していくのでよろしくないのだ。とは言っても普通そんなに気にはしない。現場で検査があるんだそうである。なんと迷惑な。昨日半日使っていくつかのやり方を試し、薬品かけてからスコッチ(台所で使うあれの工業用だ。大きいので切って使う。)でこするのが一番いいとの結論に達した。僕以外の二人は薬品使うと思いながらもゴム手袋を用意せず、「手が痛い。」「ピリピリする。」と文字通り身を削って得た結論である。なのに三時の休憩後にやって来た監督は鉄筋をしげしげと眺めてから、残った薬品が鉄筋に膜貼ってコンクリがつかなくなると困ると言い出した。そりゃ考え過ぎだろうと思うものの確信がある訳でもないので反論も出来ない。結局一番避けたかった、薬品や洗剤を何も使わず金物のブラシでこすってから改めてスコッチでこするやり方になった。このやり方だと時間は倍以上かかる。今回の仕事は派遣会社が一次、監督は元請のゼネコンの工場の人間だ。職長は午前中に予定していた三人で一日では終わらないと監督と交渉し、一日延ばしている。けどこれだとあんまり余裕なさそうだな。仕方ないか。丸一日以上、三人で延々コンクリートパネルの並ぶ屋根もないだだっ広いところで馬鹿話しながら鉄筋をこすり続けた。指も腰も痛いし身体中赤錆だらけだ。
  さて、今日の帰りである。二週間前なら帰りの道々本屋や図書館に置きビラしながら帰ったとこだが、もうそんな時期ではない。地図を見ると八街が割と近くにある。僕が茨城に来たのはそもそもは父が始めた事業のためだ。父の死後の経営者時代も含めて三年半、下水処理みたいな仕事をしていて、茨城県の下半分と千葉の一部をうろうろしていた。せっかく結構広い範囲を動き廻っていても従業員と車で移動なので本屋を見かけたからと立ち寄る訳にもいかない。忠魂碑などいくつも見かけているが大部分が調査出来ていないままである。八街も、そうした仕事で走り廻っていたのに本屋すら覗いていないところだった。せっかくだし行ってみるか。もっとも、八街の街中で本屋を見た覚えはない。携帯で調べた限り昔からの本屋はなさそうだ。あれば売れ残った郷土本もあったろうが、地方で本屋なんて生き残るのは困難な、まったくもってふざけた時代である。古本屋は、本当に古本屋と呼んでいいかはともかくブックオフだけ。期待は出来ないがとにかく行こうと走り出す。
  夕方の渋滞にぶつかり三十分以上かけて八街の市街に入る。もう陽は落ちていて、地図も見れない。道路は対面二車線、路肩に停めて場所の確認も路地に入っての方向転換もやりづらい狭くて車通りの多いところである。郊外型書店に当然何の収穫もなく、駅舎が新しくなっているのにびっくりし、散々迷って諦めた途端に図書館を発見した。入ってみた。闘病記の棚があって見いってしまう。郷土資料コーナーを眺めて面白そうな本を何冊かメモし、行政が出している地域の歴史を見つけた。郷土資料館で販売とある。郷土資料館は隣、五時で閉まっている。この図書館も平日は五時まで、水曜と金曜が七時までらしい。今日は運がよかったようだ。駄目もとで受付に聞いてみた。「この本なんですけど、図書館で販売してますか?」奥に引っ込んでしばらくしたら別の人が「すいません、郷土資料館でしか売ってないんですよ。」と言ってきた。やっぱりな。まあ、錆だらけの作業服のスキンヘッドに声をかけられ職員もさぞびっくりしたことであろう。敗色濃厚な中、ブックオフの入っているイオンを探す。もう茨城に戻る道を走っている。イオン駐車場の看板を見かけたものの、建物本体が見えず躊躇したらイオンに入り損ねた。首を傾げながらバックミラーを覗くと平べったいイオンの建物らしきものが少し見える。八街のイオンは平屋なのか!ああ、惨敗だ。
  帰宅したら九時を過ぎていた。本日の収穫は帰りのコンビニで買った『千葉日報』一部百二十円であります。