茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(446)ビンゴ大会、ないし無用の長物

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(446)ビンゴ大会、ないし無用の長物

加藤匡通

十月××日(金)
 現場でビンゴ大会があった。大規模現場だとバーベキューとかのレクリエーションが年に一度はあって、その時は酒も出る。が、最早酒を飲まない身としてみんなが出来上がっていくのを見ていても楽しくもなんともない。バーベキューったって肉はすぐなくなるし、そもそも量が少ない。今の僕にはレクリエーションとは言い難いイベントである。(飲んでた頃は酒が飲めれば後はどうでもよかったので歓迎していた。こう書くと只の我が儘だと気づくな。あはは。)
 しばらく前から朝礼で職長会会長がやたらとはしゃいでビンゴ大会の話をしていたので、あるのは知っていた。だがビンゴなんて当たった試しがない。三時半からで、三時には作業を終えて全部片付けだと言う。なら三時半に帰してくれよ。「これも仕事だから、」うーん、これ仕事かあ?
 片付けを終えて詰所に戻ったのが三時十分過ぎ。酒を受けとる長い行列が出来ている。当然、酒を手にした者から始まっている。ビンゴ大会の会場は一階上、ビンゴの様子は急ごしらえの場内放送から聞こえるようになっている。状況がわかるように模造紙が貼られ、数字を記入するようになっていて、そのための係員まで配置されている。どんだけ力入ってるんだよ。景品にはダイソンの掃除機だのレーザーの墨出しだのと高価な物も入っているらしい。けど僕は要らないなあ。せめて商品券か図書券にしてくれれば。
 とにかくその場にいればいい。行列がまるで出来ないノンアルコール飲料をもらって席に着き、本を読み出す。五月から読んでいた『神々と戦士たち』がやっと最終巻に入ったので、ビンゴなんかにかかずりあっている場合ではないのだ。青銅器時代ギリシアが舞台の小説である。多分日本語で読める青銅器時代ギリシアが舞台の物語は他にない。本屋で見つけた時は目を剥いたよ。とても楽しいのでまとめて読まずにほぼ月一冊のペースで読んで来たがもう終わりだ。
 まあ一応ビンゴの進行には耳を傾けていて、数字があればカードに穴を開けてはいるが、どうせ当たらない。そんなことより物語の結末を。ん?一列揃っちゃったぞ?まだ始まって二十分も経ってない。係員に申告したら上に案内された。えーと、どうすればいいの?あ、このくじ引くの?なんか出てきたけどこれは?何等かは知らないが当たったらしい。職長会会長が何が当たったのかわからず当惑している僕に話しかけてくる。「もっと嬉しそうな顔して下さいよ。これで映画見れますよ。」
 受け取ったのは昔のβのビデオテープより一回り小さな赤い箱だった。今ならゲームソフトより大きいとか言うんだろうが、ゲームやんないからソフトの大きさなんて知らないのだ。Amazonと書いてある。何だこれは?これで映画が見れる?プロジェクターか何か?「これでどうやって映画見るの?」「スマホで見れますよ。」「スマホ持ってないんだけど。」「テレビでも見れますよ。」ああ、ネットフリックスとか配信サービスに使う奴か。取り敢えず受け取り、下の詰所に戻ってしげしげと箱を見つめる。アマゾンファイアテレビスティックとある。うーん、動画配信サービスは多分見ないなあ。見たい作品はあるけど、そんな時間は作れないよ。同じ見るなら映画館で見たいし、そのためなら努力しようとも思うけど。つーか、映画は映画館で見るものであって、自宅のテレビやスマホで見るのは映画を見るのとはまた別のなにかだと思うけどなあ。
 当たって得をしたとも思えず、むしろこんなことで数少ないツキだか運だかを使ってしまったことになっては堪らない。とっとと誰かに譲ってしまおう!