茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(477)

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(477)今でもシリコンシーラントにはちょっとときめく

加藤匡通

十月××日(木)
 先々週先週と三日ずつしか仕事はなかった。今週も月曜は休みだ。休みなのをこれ幸いと静岡まで「富野由悠季の世界」展を見に行ったりしているが、どうもまた始まったみたいだ。社長は仕事がない、どの現場も赤字だから人を入れたくないとぼやいている。そんなことは知ったこっちゃない訳だが、どうにもならなくてどこでも雇用の安全弁たるワタクシが真っ先に切られている、と。
 小洒落た街にまた来ている。現場の隣にインド料理屋があって四十いい匂いをさせているが入ったことはない。この街の店で汚れた作業服姿で入れる店があるだろうか?いや、ない(反語)。
 ベテランと二人で入ったので二人で組んで何かするのだと思っていたら別々だった。ベテランは墨出で、僕はスリーブの補修だ。
 スリーブは中に配管するための管である。中を通る配管は当然スリーブより小さいが、スリーブと管の間に出来た隙間は塞がないといけない。隙間があると火事の時に火の通り道になるからだ。 隙間にはグラスウールなんかの不燃材を詰めてから端部をモルタルで塞ぐ。ここでさらにその上から防水としてパテを塗る。パテは外壁の一番外側で、壁からは盛り上がる形になる。
 余計なことだが、スリーブと配管の隙間は全部埋めるのが建前だが、実際に全部を埋めることは少ないと思われる。スリーブを通す壁や梁が厚くなればなるほど隙間への詰め物は難しくなる。ある程度以上の厚みで全部埋めろと言われたことはない。むしろ、適当でいいと言われる。全部詰める手間はかけたくないらしい。
 今回の作業は外壁のスリーブの出口の補修で、設備は最後の仕上げ、防水材をパテでいいと思ったのだが建築はシールにしろといい、シールを打つにはモルタルが多過ぎるので削れ、と。シールはまあゴムみたいな物で、間違っても紙に糊が着いた物のことではない。シールの仕上げは外壁と同じ高さ、出っ張ってはいけないからモルタルを斫ってシールを打つ分の糊しろと言うかシールしろを作らないといけないのだ。躯体をやってはいけないので手斫りだと言う。道具は?と聞いたらハンマーと小バールを渡された。

 もう一回余計なことだが、シール材はかつて怪獣おたくの間では人形アニメ用の素材として知られていた。バスコークとかシリコンシーラントは怪獣を作る材料だと思っていたので、ホームセンターでシール材を見ては胸をときめかせていたのだ。それがガンを手にしてシールをこんなに打つ機会が来ようとは。なのに怪獣は作ったことがない。なんと理不尽な。

 モルタルを叩いてみると、詰め物が薄いのであっさり陥没する。詰め物が少ないとこういう時に役立つが、これはなんか考え方の順番が間違ってるような気もする。少し引っ込めて再度シールしろを持ってモルタルを塗れと言う指示なので適当に引っ込めて廻る。図面だと四十ヵ所近い。社長からは二日と聞いているが、これ二日じゃ終わんねーぞ?

 さらにモルタルを壁に対して凹んだ形で塗ったが、モルタルを練る小手も塗る小手もない。・・・これでどうしろと?はっきり指の跡が残る仕上がりになってしまう。とりあえずモルタルを塗ってこの日は終了。全体の四分の一位しか出来なかった。

 翌朝まず前日モルタルを塗ったところにシールを打った。足場に上って準備を始めると、同じ足場上にシール屋がいる。外壁の継ぎ目にシールを打つらしい。ええ、本職の隣でやるのかよ!うわあ勘弁してくれえ!そう思いながら手をシールまみれにしてシールを打つ。そのうち段ボールの切れっ端をヘラの代わりにしてならし始めたが、汚いことに変わりはない。シールの表面はきれいに仕上げればとてもなめらかでツルツルになるが、僕がやった物はなんともまあひどい代物で。

  素人では埒が明かないと監督も思ったのだろう。シールは後日打てる人を呼ぶから、と言われて僕はモルタル詰めまでになった。作業が楽になったのはありがたいけど、この作業いつまであるんだろ。この現場が終わったらしばらく休みと言われてるんだけどさ。