茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(505)「日々映画を見続けていることが勝利だ。」

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(505)「日々映画を見続けていることが勝利だ。」
加藤匡通
七月××日(金)
 車は点検されて戻って来た。故障ではない、たまにあることだと説明され、困惑した。やっぱり僕は車持たない方がいいんじゃないか?
 二十年近く前、まだ東京にいた頃、仲間が車を入手した。彼は「君とは階級が違うんだよ。」と言っていた。もちろんこれは半ば冗談なんだが、事実でもあった。当時彼の年収は四百万を越えていて、日雇派遣だった僕は二百五十万に届いていなかったと思う。車を自分が個人で所有するなんて考えたこともない。
 今、僕は公共交通なんて半ば壊滅していると言っても過言ではない茨城県に住んでいて、やむを得ず車を所有している。だが、やはり車を所有出来るような階級ではないのだと思う。
 市役所からは税金の督促が来ていて、連絡をしたら、年度内に全額完納して欲しいと言われた。単純に割ると月に七万払えば完納出来る、と言われて絶句した。えーと、この一年半近くのダメージで公共料金が遅れ気味に戻ったのに、どうやって?月々の収入と支出を聞いて、それなら七万払えますよねと畳み掛けられまた絶句。 新型感染症の影響で仕事が減って、と説明をするも、その収入ならどうにかなりますよね、こちらもある程度目処が立たないとこまりますので、と聞いてもらえない。脅されてる気分だ。それでもどうにか半分程にしてもらった。
 慌てて以前教えられた月次支援金の手続きを確認した。そもそもホームページで確認すると僕には適用出来ない様に読めるんだが、これはやっぱり可能な限り申請を少なくしたいと言う意向の表れなんだろうな。それでいて予想より申請が少ないとか発表して、だから新たな支援策はなくてもよいとかって結論出したいんだろ?笑わせる。で、月次支援金はネットでないと手続きが出来ないと知った。確認機関とやらは申請までは出来ない。行政書士とかは申請まで出来るが一万と言われてためらい、取り敢えず止めた。十万申請するのに一万は歩が悪過ぎる。けど、僕に手続きできるかね?
 社会福祉協議会の貸付を問い合わせると、緊急小口資金はもう使えないと言われた。あれ?二回まで使えるんじゃなかったっけ?総合支援資金なら使えると言われるが、ちょっとためらった。六十万まで利用出来ると言われれば飛びつきたくもなるけど、借金だぜ?しかし背に腹は変えられない。六十万で税金払うか。そう思ったら、書類が足りないと判明した。ああ、今日は時間切れだ。
 滞納していたんだから偉そうに言うなと言われれるんだろうが、大企業は大幅に減税され、富裕層の累進課税も大幅に減額され、しかし貧乏人からは取るのが国や自治体の方針かと思うと頭に血が昇る。しかも新型感染症対応の経済支援策はざるだ。一体どうしろと?

 これはどう考えても映画なんか見てる場合な事態である。むかし四方田犬彦の文章で「日々映画を見続けていることが勝利だ。」というのがあった。そのころはまだ二十歳そこそこでよく分からなかった。今となっては、勘違いかもしれないが、分かる。好きなことを日々続けること自体が、このふざけた世界に対する小さな勝利なのだ。 
 とは言え、月に七万払えとか迫られると自分の価値は七万円なのだと役所から決められたようで、いい気分ではない。けれども、僕の価値なんて七万くらいって気もする。そのくらいだと思っといた方がいいだろ。