茨城不安定労働組合

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日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(549)香山滋を売りに行く

日雇派遣日記 賃金奴隷な日々(一人親方)(549)香山滋を売りに行く

加藤匡通

五月××日(火)

 連休中バイトをしたかったが、「事務所に来なくてもスマホで登録OK」ばかりをネットで見続け心が折れた。「スマホで登録OK」はスマホでしか登録出来ない、だったりするので僕のようなスマホを持たない時代について行けない者は登録出来ず仕事も出来ない。携帯では上手く見れないのでネットカフェでパソコンを見ていたが、金を払って心を折りに行ったようなものだ。

 今回は九連休、潤沢な資金があれば遊び放題だがそんな金はない。どの道集会とデモで予定は埋まっている。遊んでいる訳ではない、は本人の主観だけで端からは遊んでいるようにしか見えまい。合間に家の事をしたりはする。

 連休中よりその後の方が心配だ。次の給料は五日分にしかならない。金はあった方がいい。連休の終わり近くに本を売りに行った。

 金になるかはともかく、僕の家には本なら沢山ある。普段は売る気にならないがダブっている本があるので前から売りに行こうとは思っていたのだ。売るのはポブラ社の南洋一郎山中峯太郎がリライトした『ホームズ』数冊にビデオで『森且行 風と駆けろ』、山上たつひこ『喜劇新思想体系』、そして『香山滋全集』である。

 ダブっているのは『香山滋全集』で、その内の三巻は三冊ずつ持っている。

香山滋全集』は一冊定価七千八百円、全十五巻だ。刊行当初はまだ会社員だったので出るたびに買っていたものの途中で失業、日雇派遣となり一日の日当とほぼ同額の本を買えなくなり購入は中断された。茨城に来た当初は収入も安定していたので購入を再開、しかし何巻まで買っていたのかわからなくなり適当に注文していたが(刊行から十年近くたち店頭では見かけなくなっていた。)、父の会社の経営は悪化し僕の給料は真っ先に出なくなり高価な本を買う余裕はなくなりまた中断。やがて全集は品切れと知ることになる。

 この段階で僕はネットで買い物が出来る状態ではないので、本屋で店頭在庫を探すか古本屋に行くしかなくなった。だが長いこと古本屋でバラ売りすら見ずにいて、この数年でようやく全巻揃いを見かけるようになった。幸いなのか残念ながらなのか、手が出せる額である。残りの巻を探していたらいつ揃うのかわからない。定価で全巻揃えるのを義務と思っていたが、それすら果たせないとは。それで、去年やっと古本屋で全巻を買ったのだ。

 改めて確認すると一巻、二巻、九巻は三冊持っていた。今回売りに行ったのはこの三冊である。

香山滋全集』は九十三年から九十七年に刊行されている。『海野十三全集』が完結し、次は何かと思ってたら香山滋だったので驚いた憶えがある。海野十三の次は押川春浪山中峯太郎だと思っていたのだ。そりゃ好きな小説家の全集と聞けば嬉しいが、順番から言ったら押川春浪山中峯太郎だろう。バブルも弾け、香山滋は売れなかったのだろう。後に続く全集がなかったのは実に残念だ。

 なんと言うかどれもマニア向けなのでまんだらけに行った。

香山滋全集』の一、二巻は千円、九巻は千二百円で売れた。安過ぎる!と言いたいところだが品切れとは言え二十年前の全集は半額では並ばないだろう。香山滋の初版本は平気で万を越すが、新刊じゃ売れないだろうしな。

 状態が悪いからか山中峯太郎南洋一郎山上たつひこ森且行も値が着かなかった。山中峯太郎、戦前の本なら状態が悪くても売れるんだろうな。他に持って行った本が売れはして売上は四千円を越えた。交通費を考えるとかろうじて映画一本分だ。焼石に水?いやいや、いろんな形で僕を支えてくれてありがとう香山滋